会社員ライブラリー

しがないサラリーマンの書評やエンタメ鑑賞の記録

書評

【書評】「1億総疲労社会」の処方箋――『休養学』

疲労回復には睡眠が一番。おそらく、大多数のビジネスパーソンがそう理解していることだろう。本書はそんな至極当然の言説を覆す。もちろん、睡眠が重要なのは言うまでもないが、運動やバランスの良い食事、趣味への没頭など、睡眠を含めた余暇の過ごし方が…

【書評】「居場所」をめぐる少女の物語――『マウス』

" data-en-clipboard="true"> 本作は「居場所」をめぐる2人の少女の物語である。空気を読みながら自らの居場所を作ろうと躍起になる律。クラスになじめずどこにも居場所がなかった瀬里奈。お互いにスクールカーストの下層に属していたものの、律が仕組んだ…

【書評】世界は「編集」でできている――『知の編集工学』

動画編集、画像編集、雑誌編集……。「編集」という言葉には、どこか職人気質なイメージが纏わりついていると感じる。実際に『広辞苑』で「編集」の頁を引いてみると「資料をある方針・目的のもとに集め、書物・雑誌・新聞などの形に整えること」とある。つま…

【書評】レイワを生き抜く「健全な反逆」のススメ――『令和その他レイワにおける健全な反逆に関する架空六法』

パンチの効いたタイトルである。「健全な反逆」。「架空六法」。つい、ストーリーを妄想したくなる。「悪法に苦しむ市民」を描いたのだろうか。それとも「パワハラ上司を訴えるビジネスパーソン」を描いたのだろうか。それとも……と想像しながらページをめく…

【書評】「ポスト産業資本主義」時代における会社の在り方――『会社はこれからどうなるのか』

重厚長大型の産業資本主義は耐用年数をとうに過ぎ、日本社会は差異を意識的につくり出すことで利潤を生みだしていく時代――ポスト産業資本主義の時代にシフトしている。ポスト産業資本主義の社会では、他社製品/サービスとの間にはいかなる差異があるのかと…

【書評】一方通行化する「言葉」への警告――『東京都同情塔』

東京2020オリンピック・パラリンピック大会のメイン会場に使用された新国立競技場。その目と鼻の先にある新宿御苑に、70階建ての高層建築物が屹立している。通称「シンパシータワートーキョー」。東京スカイツリーや東京タワーのように、都会のシンボル…

【書評】シニア人材に送る「応援歌」――『老人と海』

近年、シニア人材の活躍がしきりに叫ばれている。それは、令和3年4月1日に施行された「改正高年齢者雇用安定法」が大きく影響していることだろう。 同法では、70 歳までの定年の引き上げや定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制…

【書評】人間の根源的な「問い」を思考する――『人生を変える読書 人類三千年の叡智を力に変える』

著者の堀内勉氏は東京大学卒業後、日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券などを経て、森ビルに入社。森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFOなどを歴任し、現在は多摩大学大学院経営情報研究科教授、多摩大学社会的投資研…

【書評】仕事をイーブンにこなす”事務の人”の矜持――『これは経費で落ちません!~経理部の森若さん~』

本作の主人公である「森若さん」は、まさに「事務の人」である。少々乱暴な言葉を使うとするならば、「事務の擬人化」と言い切ってよいだろう。それは本作を通じて森若さんの振る舞いや思考回路を追うことで、自然と納得できるはずだ。 「事務の人」≠「正義…

【書評】気鋭の哲学者が誘う「言語をめぐる旅」――『中道態の世界 意志と責任の考古学』

中動態。おそらく多くの人にとって耳なじみのない言葉だろう。端的に言えば「能動態」でも「受動態」でもない態のことだ。 例えば、「謝る」は能動・受動のどちらに当てはまるだろうか。謝るという行動は、言うまでもなく謝罪の気持ちを自らの動作で表したも…

【書評】太平洋戦争の「ポイント・オブ・ノー・リターン」――『ミッドウェー海戦』

東京から東に4100キロ。北太平洋中部に位置するミッドウェー島は、1年中気温が暖かく湿度が高い海洋性気候の島である。毎年約200万もの海鳥や渡り鳥が巣作りのために同島を訪れ、特に11~7月にかけてはアホウドリの一種であるコアホウドリとクロア…

【書評】南の孤島「硫黄島」での決戦録――『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』

東京都心から南へ1200キロ、小笠原諸島の南端に位置するのが硫黄島である。島の面積はわずか22キロ平方メートルで世田谷区の半分にも満たない。天然記念物の小笠原諸島産陸貝やオガサワラオオコウモリ、アカガシラカラスバトが生息するほか、植物ではガ…

【書評】細菌兵器に手を染めた陸軍軍医の横顔――『731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』

1946(昭和21)年5月3日に開廷した極東国際軍事裁判、通称「東京裁判」では戦争犯罪を行ったとされる軍人、政治家28人がA級戦犯として起訴された。太平洋戦争開戦時の首相・東条英機や陸軍の重鎮である荒木貞夫、国際連盟脱退を表明した松岡洋右など、い…

【書評】1945年8月15日の攻防――『日本のいちばん長い日』

8月15日は言わずと知れた終戦記念日である。混迷を極める戦時体制にピリオドを打った節目の一日で、毎年この日が近づくとメディアは「凄惨な悲劇を風化させてはならない」と言わんばかりに、こぞって戦争特集を組む。 とはいえ、その取り上げ方は「戦争を…

【書評】日本はなぜ満蒙国境で敗走したのか――『ノモンハンの夏』

ユーラシア大陸東部、中国とモンゴルの国境近くに、ノモンハンがある。見渡す限りの草原に、放牧された牛や馬が草を食む――まさに"牧歌的"という言葉を体現したかのようなこの土地で、惨憺たる戦闘が繰り広げられたのは今から82年も前のことだ。 ノモンハン…

【書評】青春小説の金字塔的作品――『ライ麦畑でつかまえて』

J・D・サリンジャーは1919年、ニューヨーク州マンハッタンで生まれた。貿易で名をあげたユダヤ人の父と、結婚を機にユダヤ教に改宗した母の間に生まれた彼は、コロンビア大学で文学を学びながら創作活動を開始。早々から文才が開花し、彼の書いた短編…

【書評】SFアニメの金字塔を読み解く――『攻殻機動隊論』

折に触れて見直すアニメーション作品がいくつかある。その一つが『攻殻機動隊』だ。内務省にある首相直属の対テロ・防諜機関である公安9課。その現場指揮官で全身義体の草薙素子を筆頭に、レンジャー出身で格闘戦を得意とするバトー、元刑事で生身の体を持…

【書評】一連のオウム真理教事件を再構成――『沙林 偽りの王国』

1995年3月20日朝の通勤時間帯、営団地下鉄(現東京メトロ)日比谷線、丸ノ内線、千代田線の車両内にて猛毒のサリンが撒かれた。地下鉄サリン事件である。オウム真理教教祖・麻原彰晃の指示を受けた幹部構成員らが各線の車内でサリンを散布。乗客ら約3…

【映画評】ポンコツアンドロイドが示唆する「人間とAIの共生」――『アイの歌声を聴かせて』

気鋭のアニメーション監督・吉浦康裕氏は自身の作品を通して「人間とAIの関係性」に一石を投じている。 例えば、同氏が原作・監督・脚本を務めた『イヴの時間』(2008年)は人間と人型ロボット(アンドロイド)の"共生"を模索した意欲作だ。本作は両者…

【書評】“二刀流”の著者が繰り広げる「医療ミステリー」――『白い夏の墓標』

細菌学者の佐伯教授は、パリで開かれた肝炎ウイルス国際会議での研究発表後、米国陸軍微生物研究所の博士を名乗る老紳士から、ある研究者の死の真相を打ち明けられる。その研究者とは、佐伯が若手だったころに苦楽をともにした、同じ細菌学者の黒田武彦だっ…

【書評】組織をうまく回す"たった一つのさえたやり方"――『とにかく仕組み化』

著者の主張はとにかくシンプルだ。「組織が抱える課題の解決には『仕組み化』が役立つ――」。本書では、経営者やリーダーが「仕組み化」を進めるうえでのポイントを解説している。 本書の特徴、それは凡百のビジネスフレームワーク本と一線を画しているところ…

【書評】ハライチ岩井が活字でラジオする!――『どうやら僕の日常生活はまちがっている』

エッセイとはさしずめラジオのフリートークのようなものだと思う。 いずれも日常生活で体験した出来事の一部始終を、自分自身の価値観や心の機微、想像、妄想を織り交ぜながら、時にユーモラスに、時に毒気満載で語りつくす。両者を隔てるのは記述か口述かの…

【書評】優れた姿も、不甲斐ない姿も、すべて同じ「私」――『私とは何か 「個人」から「分人」へ』

間もなく新入社員が入ってくる。社内報によれば、自社には100人超が入社するらしい。私が勤める部署への配属があるかは定かではない(おそらくないだろう……)が、まずはフレッシュなニューフェースの登場を心から祝福したいと思う。 さて、かれらが社会人…

【書評】「純粋さ」ゆえの「異常さ」――『とんこつQ&A』

ほのぼのとした表題。白を基調にしたポップな装丁。その牧歌的な印象に引きずられ、ハートフルな物語を期待して読み進めれば、きっと痛い目を見ることだろう。本書に収録されているのは、いずれも不気味で背筋が寒くなる作品ばかりだから。 表題作『とんこつ…

【書評】生き物としての「ヒト」を見つめなおす――『炉辺の風おと』

本書は大衆小説、児童文学、エッセイなど、多彩な作品を輩出している著者が、八ヶ岳にある山小屋での暮らしを通して得た経験や心の機微を綴った一冊である。 梨木香歩といえば、草木や動物に関する深い造詣、自然の美しさや季節の移り変わりを精緻に叙述する…

【書評】どうにも対処しようのない事態に耐える力――『ネガティブ・ケイパビリティ』

書店に行くと、「課題設定」「問題解決」系のフレームワーク本が多く平積みされている姿が目に飛び込んでくる。「先行き不透明」「目まぐるしく変化する」などと形容されがちな世相とあって、これらの書籍にニーズがあるのは自明だろう。 1カ月先の状況さえ…

【書評】プロインタビュアーが明かす取材の裏側――『聞き出す力』

本書のタイトルを見て、「インタビューやヒアリングのコツを紹介したテクニック本」と思ったそこのあなた。最初に言っておこう。その認識は正解ではない。 正確に言うと100%間違っているわけではない。実際に、本書では50にのぼる「聞き出す力」の極意が…

【書評】「普通」という価値観に一石投じる――『コンビニ人間』

本作が投げかけるのは伝統的価値観への疑問だ。学校を卒業したら正社員として働く。結婚・出産を経て温かい家庭を築く。孫にも恵まれ、定年後はまったりとした余生を過ごす。大多数の人間が送るであろう生活。しかしそれは括弧つきのものでしかなく、「普通…

【書評】「ヴィクトリア朝京都」を"迷"探偵たちが駆け巡る――『シャーロック・ホームズの凱旋』

あるときは「”腐れ大学生”が跋扈する並行世界」として。またあるときは「人とのご縁が紡がれる場所」として。またあるときは、「現実と異世界が交錯する妖しげな街」として。多彩なアプローチで「京都」を描いてきた著者。本作では「ヴィクトリア朝京都」と…

【書評】ニュートラルな視点で世界を見つめる――『成瀬は信じた道をいく』

完全無欠で唯一無二――。あの成瀬が帰ってきた。本作は昨年3月に出版された『成瀬は天下を取りにいく』の続編である。 『成瀬は天下を取りにいく』は滋賀県大津市在住の中学生・成瀬あかりとその周囲の交流を描いた短編集で、発売からわずか1年で10万部を突…