会社員ライブラリー

しがないサラリーマンの書評やエンタメ鑑賞の記録

2024-03-06から1日間の記事一覧

【書評】ハライチ岩井が活字でラジオする!――『どうやら僕の日常生活はまちがっている』

エッセイとはさしずめラジオのフリートークのようなものだと思う。 いずれも日常生活で体験した出来事の一部始終を、自分自身の価値観や心の機微、想像、妄想を織り交ぜながら、時にユーモラスに、時に毒気満載で語りつくす。両者を隔てるのは記述か口述かの…

【書評】優れた姿も、不甲斐ない姿も、すべて同じ「私」――『私とは何か 「個人」から「分人」へ』

間もなく新入社員が入ってくる。社内報によれば、自社には100人超が入社するらしい。私が勤める部署への配属があるかは定かではない(おそらくないだろう……)が、まずはフレッシュなニューフェースの登場を心から祝福したいと思う。 さて、かれらが社会人…

【書評】「純粋さ」ゆえの「異常さ」――『とんこつQ&A』

ほのぼのとした表題。白を基調にしたポップな装丁。その牧歌的な印象に引きずられ、ハートフルな物語を期待して読み進めれば、きっと痛い目を見ることだろう。本書に収録されているのは、いずれも不気味で背筋が寒くなる作品ばかりだから。 表題作『とんこつ…

【ナナシス】ナナシス10周年に寄せて――ナナシス楽曲と私

※この記事は2024年2月19日に他媒体でアップしたものです。 10年前の今日、「Tokyo 7th シスターズ」(ナナシス)は産声を上げました。10年という月日は短いようで長く、一瞬のうちに過ぎ去ったように感じるものの、その間に多くのファン(支配人)を獲得し、…

【ナナシス】ありのままに叫んだナナシス2053 2ndライブ――Tokyo 7th シスターズ 2053 2nd Live “Brightestar”

Tokyo 7th シスターズ 2053 2nd Live “Brightestar” が12月16日、17日の2日間、江戸川区総合文化センター大ホール(東京都)で開催されました。今年3月に開かれた1stライブから早9カ月。今回は2053組では初となる声出しOKのライブでした。歓声やコール&…

【ナナシス】ナナシスの新しい"ハジマリ"を見た――Tokyo 7th シスターズ 2053 1st Live "Startrail"

2015年5月31日。私は東京・お台場にあるZepp Tokyoに向かっていた。ナナシスの記念すべき1stライブ「H-A-J-I-M-A-L-I-V-E-!!」(ハジマライブ)に参加するためだ。季節を先取りした暑さのなか、物販で5時間並んだことは今となっては良い思い出だし、何より、…

【ナナシス】つながりの拡散と途絶――EPISODE 2053 SEASON1-006「スター・ライト」

EPISODE.2053 SEASON1-006「スター・ライト」にはアイドルどうしの"バチバチ感"が終始漂っている。「Asterline」の七々星アイ・一ノ瀬マイ・朝凪シオネ、「LuSyDolls」「RiPoP」の恋渕カレン・一ノ瀬ミオリの間には、「切磋琢磨」という爽快感あふれる言葉で…

【ナナシス】「つながり」が生み出す思考変容――EPISODE 2053 SEASON1-005「星屑のアーチ」

前回の記事では『EPISODE 2053 Roots.』の背景にある「競争社会」の功罪を整理し、消耗や疲弊を乗り越えるための戦略として、利得から切り離された「つながり」の重要性を述べた。 yojouhan0526.hatenablog.com 「Roots.」はメンバー入りを賭けた候補生どう…

【ナナシス】競争社会を颯爽と生き抜く「つながり」の価値――「EPISODE 2053 Roots. SEASON1」

Roots.は、その出自からして「競争するアイドル」というイメージが強い。ここで言う競争とは、Roots.のメンバーを賭けたオーディション候補生の競争、隆盛を極めるエンタメビジネスを勝ち抜くという市場競争――の大きく二つを指す。 つまるところ、『EPISODE …

【ナナシス】「現実の重み」のなかで歩みを進めるには――「EPISODE 2053 Season1」

相変わらず、現実の"重さ"を感じる――。『EPISODE2053 Season1』を通して観ての印象である。 ここで言う「現実」とはつまるところ「大人の世界」のことで、お金を稼ぐことの優先順位が高く、収益の獲得と拡大を念頭に置いた行動が志向される。直接的な利益に…

【書評】生き物としての「ヒト」を見つめなおす――『炉辺の風おと』

本書は大衆小説、児童文学、エッセイなど、多彩な作品を輩出している著者が、八ヶ岳にある山小屋での暮らしを通して得た経験や心の機微を綴った一冊である。 梨木香歩といえば、草木や動物に関する深い造詣、自然の美しさや季節の移り変わりを精緻に叙述する…

【書評】どうにも対処しようのない事態に耐える力――『ネガティブ・ケイパビリティ』

書店に行くと、「課題設定」「問題解決」系のフレームワーク本が多く平積みされている姿が目に飛び込んでくる。「先行き不透明」「目まぐるしく変化する」などと形容されがちな世相とあって、これらの書籍にニーズがあるのは自明だろう。 1カ月先の状況さえ…

【書評】プロインタビュアーが明かす取材の裏側――『聞き出す力』

本書のタイトルを見て、「インタビューやヒアリングのコツを紹介したテクニック本」と思ったそこのあなた。最初に言っておこう。その認識は正解ではない。 正確に言うと100%間違っているわけではない。実際に、本書では50にのぼる「聞き出す力」の極意が…

【書評】「普通」という価値観に一石投じる――『コンビニ人間』

本作が投げかけるのは伝統的価値観への疑問だ。学校を卒業したら正社員として働く。結婚・出産を経て温かい家庭を築く。孫にも恵まれ、定年後はまったりとした余生を過ごす。大多数の人間が送るであろう生活。しかしそれは括弧つきのものでしかなく、「普通…

【書評】「ヴィクトリア朝京都」を"迷"探偵たちが駆け巡る――『シャーロック・ホームズの凱旋』

あるときは「”腐れ大学生”が跋扈する並行世界」として。またあるときは「人とのご縁が紡がれる場所」として。またあるときは、「現実と異世界が交錯する妖しげな街」として。多彩なアプローチで「京都」を描いてきた著者。本作では「ヴィクトリア朝京都」と…

【書評】ニュートラルな視点で世界を見つめる――『成瀬は信じた道をいく』

完全無欠で唯一無二――。あの成瀬が帰ってきた。本作は昨年3月に出版された『成瀬は天下を取りにいく』の続編である。 『成瀬は天下を取りにいく』は滋賀県大津市在住の中学生・成瀬あかりとその周囲の交流を描いた短編集で、発売からわずか1年で10万部を突…

【書評】「天下を取る」浮世離れした若者の物語――『成瀬は天下を取りにいく』

成瀬あかりは“浮世離れ”した人間である――。物語に触れるなかでそんなイメージが沸き上がってきた。 本作は滋賀県大津市の女子中高生・成瀬あかりと、その周囲の交流を描いた連作短編集で、一つのエピソードを除いてあかりに関わる他者の視点で物語が進んでい…