会社員ライブラリー

しがないサラリーマンの書評やエンタメ鑑賞の記録

【書評】世界は「編集」でできている――『知の編集工学』

 動画編集、画像編集、雑誌編集……。「編集」という言葉には、どこか職人気質なイメージが纏わりついていると感じる。実際に『広辞苑』で「編集」の頁を引いてみると「資料をある方針・目的のもとに集め、書物・雑誌・新聞などの形に整えること」とある。つまるところ、編集とは新聞や書籍や雑誌、映画やテレビや動画といったメディアをつくる一連のプロセスを指し、そのスキル(編集力)は記者や編集者、テレビマン、クリエイターといった特定の職業にのみ求められるもの――。そう思ってはいないだろうか。

編集=情報の運動に潜む営み

 本書の主張はこれらの印象とは一線を画す。著者は、編集とは情報のインプット/アウトプットの間に潜む営みであり、コミュニケーションの本質であると喝破する。あまねく人々の生活と密接にかかわっており、誰もが知らず知らずのうちに行っている動的なはたらき。それが編集の本質なのである。

 商品やサービスの提案書を例示してみよう。提案書を作る目的は商談を成功に導くことにある。よって、提案書には訴求力の高いタイトルをつけ、顧客の目をひくような見出しやリード文を盛り込み、自社のビジネスがいかにして相手に貢献できるかといった要素を盛り込まなければならない。そのためにも、相手にまつわる情報を仕入れ、整理したうえで課題を分析し、構造化し、ここに自社の商品・サービスをあてはめ、文書に展開する必要がある。この一連のプロセスをつぶさにみていくと、情報のインプット/アウトプットに潜む営みという編集の本質が、しっかりと宿っていることが理解できるだろう。このように、提案書づくりも立派な「編集」的行為なのだ。

編集を実践する

 そんな編集にまつわるノウハウを集約し、実践的スキルとして体系化したのが本書だ。著者の松岡正剛は雑誌や書籍の執筆・編集を経て、日本文化、芸術、生命哲学、システム工学など多方面に及ぶ思索を情報文化技術に応用する「編集工学」を確立した編集の第一人者。稀代の読書家としても知られ、自前の書評サイト(「松岡正剛の千夜千冊」)では数多く書評を紹介している。

 本書では編集力を鍛えるためのメソッドが多数収録されている。「連想ゲーム」「エディティング・プロセス」「編集工学の『作業仮説』」「六十四編集技法」など、著者が編集に長年携わる中で編み出したノウハウやフレームワークが目白押しだ。本書を精読すれば、間違いなく編集力が伸びていく。

 とはいえ、重要なのは獲得した知識やノウハウを実践に生かすことである。これは何も編集に限った話ではないが、知識やノウハウの習得に満足せず、積極的なアウトプットを通じてこそ、スキルの向上が実現するのだ。

 そう、自己研鑽も情報のインプット/アウトプットを反復する、「編集」の王道をゆく行為なのである。