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【書評】「1億総疲労社会」の処方箋――『休養学』

 疲労回復には睡眠が一番。おそらく、大多数のビジネスパーソンがそう理解していることだろう。本書はそんな至極当然の言説を覆す。もちろん、睡眠が重要なのは言うまでもないが、運動やバランスの良い食事、趣味への没頭など、睡眠を含めた余暇の過ごし方が疲労の回復度合いを大きく左右すると著者は言う。

 現代人はパソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイスを駆使して仕事を行っている。仕事だけではない。他者とのコミュニケーションやショッピング、情報収集、エンタメ鑑賞など、ありとあらゆる行為がデジタルデバイスを通じて行われている。デジタルデバイスの長時間利用は首・肩のこりや眼精疲労など体の不調に加え、自律神経の乱れを引き起こすと言われていることから、現代人の疲労感はデジタルデバイスに起因すると言ってよいだろう。

 肉体労働が主流だった昔の時代であれば、睡眠をきちんと取ることで疲労回復を図ることができた。かたや、今はデジタルデバイスを用いた労働が主流の時代。仕事が終わってからもデジタルデバイスと向き合うことから興奮・緊張状態が続き、日常生活のリズムが狂ってしまう。このリズムの乱れが現代人の疲労の原因であると著者は指摘する。

 つまるところ、体力は睡眠をとることで回復するが、活力はそう簡単に取り戻せない。ロールプレイングゲーム風に換言すれば、HPは睡眠で回復するが、MPは睡眠だけでは回復しないのだ。

「適度な負荷」が重要

 本書が解説しているのは、現代人に向けた体力(HP)と活力(MP)の取り戻し方だ。医学博士である著者によると、疲労回復には「休みつつ、適度に負荷をかける」ことが重要であるという。どういうことか。

 前述したように、睡眠だけでは体力しか回復しない。活力は睡眠以外で取り戻すほかなく、そのための手段が「負荷をかけること」というわけだ。

 では、どのような負荷をかければ良いのか。著者はその要件として①自分で決めた負荷であること②仕事とは関係ない負荷であること③それに挑戦することで、自分が成長できるような負荷であること④楽しむ余裕があること――の四つを挙げる。つまるところ、「楽しい」という感情が喚起されるような物事に、能動的に取り組むことが重要なのである。

 この答えは人によって異なるはずだ。ウオーキングやジョギングなどの運動を挙げる人もいれば、芸術鑑賞を挙げる人もいるだろう。レジャー、料理、旅行といった回答もありそうだ。いずれにしても、楽しいと思える負荷を定期的にかけることが、疲労回復には欠かせないのだ。