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【書評】人間の根源的な「問い」を思考する――『人生を変える読書 人類三千年の叡智を力に変える』

 著者の堀内勉氏は東京大学卒業後、日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券などを経て、森ビルに入社。森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFOなどを歴任し、現在は多摩大学大学院経営情報研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長を務めるかたわら、一般社団法人100年企業戦略研究所所長、社会変革推進財団評議員、川村文化芸術振興財団理事、資本主義研究会主宰としても活動している。

 無類の読書家としても知られており、数々の媒体で書評を連載しているほか、2021年には200冊にのぼる書籍の書評集『読書大全』を上梓。ビジネスパーソンが抑えるべき書籍をピックアップし、その要点をわかりやすく解説しているとして、好評を博している。

 本書『人生を変える読書 人類三千年の叡智を力に変える』では、数多くの本を丹念に読みこんできた著者による「読書の効能」が語られている。

博覧強記の著者が語る「読書の効能」

 読書の効能、それは「『私は何者か?』を考えるきっかけを与えるところにある」と著者は言う。私は何がしたいのか、何をするべきなのか、何が好きなのか、何を欲しているのか――など、「私」を取り巻くさまざまな感情を自覚し、自分なりの答えを出すには、一にも二にも読書あるのみというわけだ。あまねく本を手に取り、思考の材料と枠組みを醸成することによって、「私」という軸が太く頑丈になる。

 現代社会はとかく自我が希薄になりがちだ。「ルーティンワークはAIにとって代わる」「現代人はデジタルスキルが不可欠」などの言説が幅を利かせ、不安に感じたビジネスパーソンがこぞってAIやDXに関するスキルを身につけようと躍起になる。モノを買うときも、ネットのレビューやショッピングサイトのレコメンド機能を参考に買うかどうかの判断を下す。現代社会のよくある光景だが、これらに共通するのは「私」が希薄な状態に陥っているということだ。このままではあなたは損をする、あなたは淘汰されていく、あなたにはこの商品がぴったり――など、外部環境に身を委ねて意思決定する。そこに「私」は介在しない。言うなれば、「"私"の希薄化」「"あなた"の肥大化」である。

 周りに流されることほど楽なものはない。特に変化が激しく不確実性の高い現代社会では、数多くの正解のない問題に頭を悩ませるよりも、周りが提示する「答え」を参考にした方が効率的だ。一方で、こうした風潮が蔓延しているところに、今の日本社会の課題がある著者は指摘する。

問題の本質を見極めようとはせずに、ひな鳥が口を開けて餌を待っているのと同じように、世の中の誰かが答えを提示してくれるのをひたすら待っているあいだに、世界の人たちは自分の頭でものを考えて、どんどん先へと進んでいってしまう……。そうして日本という国が右顧左眄しながら右往左往しているうちに、ものすごい勢いで世の中が変化していき、その流れに置いていかれてしまっている。――それが、私たち日本人の今の姿なのではないでしょうか。(P37)

 誰かに正解を教わるのではなく、自分自身で問いを立て、解決する。これの繰り返しによって、VUCAの時代を生き抜く力が鍛えられる。その知的体幹を鍛える唯一の手段こそ、本を読むことにほかならない。