会社員ライブラリー

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【書評】組織をうまく回す"たった一つのさえたやり方"――『とにかく仕組み化』

 著者の主張はとにかくシンプルだ。「組織が抱える課題の解決には『仕組み化』が役立つ――」。本書では、経営者やリーダーが「仕組み化」を進めるうえでのポイントを解説している。

 本書の特徴、それは凡百のビジネスフレームワーク本と一線を画しているところにある。組織の課題を解決する「仕組み」は数多く存在する。例えば、選択肢を3つのランクに分けて提示すると、間の選択肢が選ばれやすいという「松竹梅の法則」。デフォルトの選択肢を「はい/YES」にして、選んでほしい選択肢に他者を暗に促す「デフォルト変更」など。いわゆる「ナッジ」と呼ばれる行動経済学の理論が、ビジネスシーンで応用されつつある。

 もし、こうしたテクニックを期待して本書を手に取ったとしたら、おそらく拍子抜けすることだろう。前述したように、本書は単なるビジネスフレームワークの指南書ではない。あくまでも主眼は「仕組み」ではなく「人間」の側にある。

 著者が提示する答えは一つだけ。仕組み化とは「ルールを決めて、ちゃんと運営する」こと。たったこれだけである。

とにかく「明文化」

 仕組み化のポイントは組織運営に関するルールを明文化し、属人化を排するところにあると著者は言う。「社員の評価基準を明確にする」「部下に仕事を指示する際は具体的な期限を決める」「メールは3時間以内に返信する」など、ありとあらゆる行動にルールを設けるのだ。こうした動きは「社員を雁字搦めにしてしまうのでは……」とネガティブに捉える向きもあるだろう。が、「社員の責任と権限を明確化し、正しく平等に評価するにはルールを設けるほかない」と著者は示唆する。そしてそれが、特定の優秀な社員に依存せず、持続的に結果を残せるチームこそ優秀な組織づくりにつながるのだという。

「○○を達成すれば評価します」「○○に未達だと評価しません」と、「明文化されたこと」について指摘するだけです。逆に、「書いていないこと」で罰を与えたりしてはいけないのです。ルールにないことでは、絶対に厳しく指導しない。常に責めるのは「仕組み」の方です。そうすることで、「明文化されたルール」に価値が生まれます。

 どの組織にも、常に抜きんでた成果を挙げる優秀な社員が一定数存在する。ただ、その社員が今の職場に居続ける保障はどこにもない。特定の社員に頼りきりでは組織全体の成長が促されないし、その社員がいなくなれば、早晩業績は振るわなくなることだろう。こうした憂き目に遭わないためにも、ルールを明文化してきちんと運営する「仕組み」が必要なのだ。