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【アニメ】「真意を言葉で語る」ということ――『声優ラジオのウラオモテ』

 『声優ラジオのウラオモテ』の面白さは、その名のとおり「ウラ」と「オモテ」の顔を使い分けることで直面するピンチやトラブルを、主人公たちが乗り越えていくたくましさにある。ここで言う「ウラ」「オモテ」とは、「本音」と「建前」のことだ。「ホント」「ウソ」と言い換えても良いだろう。

 ウラ=本音=ホントと、オモテ=建前=ウソという相反する二つの要素が、この作品のコクを引き出すスパイスとして絶妙に利いているのだ。

偽りのない言葉で危機を乗り越える

 アイドル声優である歌種やすみ(本名・佐藤由美子)と夕暮夕陽(本名・渡辺千佳)は、ウラ=女子高校生としての姿と、オモテ=声優としての姿が180度異なる。清純さを売りにしているにもかかわらず、実は生粋のギャルであるやすみ(由美子)と、容姿端麗で演技も上手く歌唱力も高いが、実は地味で根暗な性格の夕陽(千佳)。この2人が「同じ高校に通っている」という理由で、ラジオ番組(「夕陽とやすみのコーコーセーラジオ!」)のパーソナリティーに抜擢されるところから物語は始まる。

 最初は互いに息が合わず、打ち合わせから本番まで常に険悪なムードが漂っていたのだが、共演を重ねるなかで仲が深まっていき、やがて良きライバルであり相棒として認め合う間柄になった。

 前述したように、2人は作中でさまざまなピンチやトラブルに巻き込まれるのだが、その過程と顛末にはある共通点が見いだせる。それは、「事実や真意を包み隠さず言葉にすることで、ピンチやトラブルを克服している」ということだ。

 例えば、第3話でやすみが夕陽の母にアイドル声優の仕事について語るシーン。弁護士である夕陽の母親は、経済的な安定性から、娘がアイドル声優として活動していることを快く思っていなかった。そんな彼女に対し、やすみは夕陽が声優として大成する可能性を秘めていること、そんな夕陽に追いつきたいという目標を抱いていることを伝える。これは嘘や偽りのない、やすみの真意だ。この一連のやり取りを盗み聞きしていた夕陽も、声優としてライバル視していることをやすみに告げる。これも紛うことなき夕陽の真意だろう。

 こうして2人は、互いに声優としての技量と将来の可能性を認め合う、ライバル的な関係へと発展していった。

 さらに第4話。監督に対する裏営業疑惑が取り沙汰され、学校での”ホント”の姿まで暴露されたことで評価が地に落ちてしまった夕陽を救うべく、やすみは「夕陽とやすみのコーコーセーラジオ!出張版」と銘打ち、真相を打ち明ける生配信を画策する。

 やすみが生配信で語ったのは、これまで2人がキャラを作って表舞台に出ていたことへの謝罪、夕陽が声優という職業に対して真摯に向き合っているという姿勢、そして、夕陽とまた一緒にラジオがしたいという強い想いだ。

 その後、配信スタジオに駆け付けた夕陽は、裏営業疑惑の当事者である監督(神代)とともに騒動の真相を語り、事態は収束へと向かう。その後はやすみも夕陽も、これまでのような「ウラ」「オモテ」の使い分けをやめ、ありのままの姿で声優活動を行うようになった。

ファンの「真意」を耳にする

 しかし、一難去ってまた一難。夕陽の自宅マンションが特定されたことを理由に、夕陽の母親が声優活動の休止を申し出る。声優を諦めようとしない夕陽とやめさせたい母親。2人の対立を目の当たりにしたやすみは、「ファンに特定行為を止めるようお願いする」ことを提案する。過去に「真意を語る」ことで夕陽の疑惑を払拭したやすみは、今回も「真意を語る」ことで危機を乗り越えようとしたのだ。言葉の可能性を信じる、いかにもやすみらしいアイデアと言えるが、夕陽の母親は歯牙にもかけない。

 さらに、2人のファンから「昔のキャラが好きだった」と告げられたことで、やすみと夕陽はアイデンティティークライシスに陥ってしまう。再び逆境に直面した2人がとった行動は、やはり「真意を言葉で紡ぐ」ことだった。

 この模様が描かれているのが第7話だ。やすみと夕陽は動画で過去のファンを裏切ったことを謝罪し、夕陽の母親から出された「声優を続ける条件」をファンに向けて発信する。

 その条件とは「下校途中にファンから声をかけられなければ声優を続けてよい」というもの。実際、通学路には数多くのファンやファン”だった”人たちが多くたむろっており、なかには2人に声をかけようとする者も現れるのだが、別のファンがそれを阻止する。

 ここで語られているのは「ファンの真意」である。「過去のファンを裏切った2人の自業自得」「やすみが嘘をついていたことに傷ついたが、声優はやめてほしくない」「夕陽の声をこれからも聞かせてほしい」「声優を続けてほしい」など、賛否こもごもの思いだ(ちなみに、これらの声は「独り言」ということになっている)。これまで自らの思いを言葉にして発信してきたやすみと夕陽は、ファンの側から「独り言」という形で真意を耳にする。ファンの言葉に背中を押された2人は、夕陽の母親から出された条件を無事クリア。再び声優としての日々を送ることとなったのである。

 かように、この作品では①ウラ/オモテを使い分ける②これにより、ピンチやトラブルに直面する③自分たちの思いを言葉にして発信し、解決を図る――という流れが反復して描かれているのだ。

 ウソや虚飾にまみれた言葉ではなく、偽りのない真実を言葉で紡ぐことが、危機を突破するうえで重要である――。「ラジオ」という、言葉を電波に乗せて発信するメディアをモチーフにしているせいか、この作品にはそんなメッセージが込められているように感じる。

 

【作品概要】

『声優ラジオのウラオモテ』

原作:二月 公(電撃文庫KADOKAWA) 

監督:橘 秀樹

シリーズ構成:大知慶一郎

キャラクターデザイン:滝本祥子

制作スタジオ:CONNECT

放送時期:2024年春


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