会社員ライブラリー

しがないサラリーマンの書評やエンタメ鑑賞の記録

小説

【書評】「居場所」をめぐる少女の物語――『マウス』

" data-en-clipboard="true"> 本作は「居場所」をめぐる2人の少女の物語である。空気を読みながら自らの居場所を作ろうと躍起になる律。クラスになじめずどこにも居場所がなかった瀬里奈。お互いにスクールカーストの下層に属していたものの、律が仕組んだ…

【書評】レイワを生き抜く「健全な反逆」のススメ――『令和その他レイワにおける健全な反逆に関する架空六法』

パンチの効いたタイトルである。「健全な反逆」。「架空六法」。つい、ストーリーを妄想したくなる。「悪法に苦しむ市民」を描いたのだろうか。それとも「パワハラ上司を訴えるビジネスパーソン」を描いたのだろうか。それとも……と想像しながらページをめく…

【書評】一方通行化する「言葉」への警告――『東京都同情塔』

東京2020オリンピック・パラリンピック大会のメイン会場に使用された新国立競技場。その目と鼻の先にある新宿御苑に、70階建ての高層建築物が屹立している。通称「シンパシータワートーキョー」。東京スカイツリーや東京タワーのように、都会のシンボル…

【書評】シニア人材に送る「応援歌」――『老人と海』

近年、シニア人材の活躍がしきりに叫ばれている。それは、令和3年4月1日に施行された「改正高年齢者雇用安定法」が大きく影響していることだろう。 同法では、70 歳までの定年の引き上げや定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制…

【書評】仕事をイーブンにこなす”事務の人”の矜持――『これは経費で落ちません!~経理部の森若さん~』

本作の主人公である「森若さん」は、まさに「事務の人」である。少々乱暴な言葉を使うとするならば、「事務の擬人化」と言い切ってよいだろう。それは本作を通じて森若さんの振る舞いや思考回路を追うことで、自然と納得できるはずだ。 「事務の人」≠「正義…

【書評】青春小説の金字塔的作品――『ライ麦畑でつかまえて』

J・D・サリンジャーは1919年、ニューヨーク州マンハッタンで生まれた。貿易で名をあげたユダヤ人の父と、結婚を機にユダヤ教に改宗した母の間に生まれた彼は、コロンビア大学で文学を学びながら創作活動を開始。早々から文才が開花し、彼の書いた短編…

【書評】一連のオウム真理教事件を再構成――『沙林 偽りの王国』

1995年3月20日朝の通勤時間帯、営団地下鉄(現東京メトロ)日比谷線、丸ノ内線、千代田線の車両内にて猛毒のサリンが撒かれた。地下鉄サリン事件である。オウム真理教教祖・麻原彰晃の指示を受けた幹部構成員らが各線の車内でサリンを散布。乗客ら約3…

【書評】“二刀流”の著者が繰り広げる「医療ミステリー」――『白い夏の墓標』

細菌学者の佐伯教授は、パリで開かれた肝炎ウイルス国際会議での研究発表後、米国陸軍微生物研究所の博士を名乗る老紳士から、ある研究者の死の真相を打ち明けられる。その研究者とは、佐伯が若手だったころに苦楽をともにした、同じ細菌学者の黒田武彦だっ…

【書評】「純粋さ」ゆえの「異常さ」――『とんこつQ&A』

ほのぼのとした表題。白を基調にしたポップな装丁。その牧歌的な印象に引きずられ、ハートフルな物語を期待して読み進めれば、きっと痛い目を見ることだろう。本書に収録されているのは、いずれも不気味で背筋が寒くなる作品ばかりだから。 表題作『とんこつ…

【書評】「普通」という価値観に一石投じる――『コンビニ人間』

本作が投げかけるのは伝統的価値観への疑問だ。学校を卒業したら正社員として働く。結婚・出産を経て温かい家庭を築く。孫にも恵まれ、定年後はまったりとした余生を過ごす。大多数の人間が送るであろう生活。しかしそれは括弧つきのものでしかなく、「普通…

【書評】「ヴィクトリア朝京都」を"迷"探偵たちが駆け巡る――『シャーロック・ホームズの凱旋』

あるときは「”腐れ大学生”が跋扈する並行世界」として。またあるときは「人とのご縁が紡がれる場所」として。またあるときは、「現実と異世界が交錯する妖しげな街」として。多彩なアプローチで「京都」を描いてきた著者。本作では「ヴィクトリア朝京都」と…

【書評】ニュートラルな視点で世界を見つめる――『成瀬は信じた道をいく』

完全無欠で唯一無二――。あの成瀬が帰ってきた。本作は昨年3月に出版された『成瀬は天下を取りにいく』の続編である。 『成瀬は天下を取りにいく』は滋賀県大津市在住の中学生・成瀬あかりとその周囲の交流を描いた短編集で、発売からわずか1年で10万部を突…

【書評】「天下を取る」浮世離れした若者の物語――『成瀬は天下を取りにいく』

成瀬あかりは“浮世離れ”した人間である――。物語に触れるなかでそんなイメージが沸き上がってきた。 本作は滋賀県大津市の女子中高生・成瀬あかりと、その周囲の交流を描いた連作短編集で、一つのエピソードを除いてあかりに関わる他者の視点で物語が進んでい…