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【書評】プロインタビュアーが明かす取材の裏側――『聞き出す力』

 本書のタイトルを見て、「インタビューやヒアリングのコツを紹介したテクニック本」と思ったそこのあなた。最初に言っておこう。その認識は正解ではない。

 正確に言うと100%間違っているわけではない。実際に、本書では50にのぼる「聞き出す力」の極意が実例とともに紹介されており、「いい答えが返ってきたら、いいリアクションで返すこと」「空気が悪くなるとしても、引かないところは絶対に引くな」など、具体的な姿勢まで指し示している。もちろん、インタビューの指南書として勉強にある点は大いにあるのだが、本書の本質はおそらくこの点ではない。

 では本書の本質はいったい何か。それは、著者がこれまでインタビューしてきた著名人の「面白エピソード集」ということである。

 格闘家、プロレスラー、アイドル、お笑い芸人、往年の名優から政治家まで、数々の著名人をインタビューしてきた著者。「本人よりも本人に詳しい」と称されるほどの徹底した情報収集の上でインタビューに臨むだけあって、取材対象の多くは気分を良くし、聞かれていないことや表に出せない話をうっかり口にしてしまうという(こうした話は得てして記事チェックの段階で全カットになる)。他方、インタビューが一筋縄にいかず、想定した方向に進まなかったこともあるようだ。

一粒で二度おいしい一冊

 こうしたインタビューのこぼれ話やトラブルを、臨場感を保ったまま赤裸々に紹介しているのが本書の醍醐味である。その証拠に、聞き出す力の極意ごとに最低1エピソード紹介されている。

 特にルビー・モレノ稲川素子の話がいい。失踪事件を経て芸能界に復帰したルビー・モレノをインタビューすることになった吉田だが、約束の時間になってもルビー・モレノは姿を現さない。所属事務所の社長である稲川素子が電話でリマインドするのだが、ルビー・モレノはあれこれ理由をつけて取材をサボろうとする。

 2人の口論を傍から見ていた吉田は、稲川素子にインタビューすることを提案。ルビー・モレノをマネジメントすることの苦労について語るという、刺激的なインタビューを収録することに成功したのだ。プロインタビュアーとして場数を踏んできた、吉田豪ならではの機転と言えるだろう。

 聞き出す力を学びつつ、芸能界の一端をのぞける。一粒で二度おいしい一冊である。